大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2412号 判決 1985年9月17日

控訴人

住田工業有限会社

右代表者

住田繁雄

右訴訟代理人

渡辺興

渡名喜重雄

被控訴人

株式会社多田野鉄工所

右代表者

多田野康雄

右訴訟代理人

田中茂

右訴訟復代理人

松留克明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載のクレーン車(以下「本件車両」という。)を製造して、その所有権を取得したものである。

2  控訴人は本件車両を占有している。

3  よつて、被控訴人は控訴人に対し、本件車両の引渡しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は否認し、同2の事実は認める。

三  抗弁

1  即時取得

(一)(1) 控訴人は、昭和五八年一〇月二〇日、当時本件車両を占有していた訴外昭和重機株式会社(以下「昭和重機」という。)から、これを代金一、一〇〇万円で買受け、その引渡しを受けた。

(2) 控訴人は右売買により本件車両を即時取得したものである。

(3) なお本件車両は、労働安全衛生法四〇条に基づき都道府県労働基準局長の発行する移動式クレーン検査証に表象され、この検査証とともにするのでなければ譲渡できないものとされているが、控訴人は、昭和五六年三月二三日付香川労働基準局長発行のクレーン検査証とともに本件車両の引渡しを受けたものである。

(二)(1) 仮に本件車両全部についての即時取得が認められないとしても、本件車両のうち架装台車両部分を除くクレーン本体については、前記売買によりその所有権を即時取得した。

(2) すなわち、本件車両は、架装台車部分(架装台車登録番号・ナゴヤ八八や四、一五五、車台番号・KW三〇M−〇八、四五八、車名・ニッサンディーゼル。以下「本件台車」という。)と、移動式クレーン本体(種類及び型式・トラッククレーン、製造番号・三三〇、一七九。以下「本件クレーン」という。)とで構成されていて、両者は別個独立に取引の対象となる。したがつて、本件台車が自動車として扱われ、その即時取得が認められないとしても、権利の原始的発生から変動まで一貫して前記検査証制度による管理体制が確立している移動式クレーンについて、自動車登録のみを対抗要件として扱い、検査証の移転による即時取得を認めないのは不当である。

2  権利濫用

控訴人の権利濫用の主張は、原判決二枚目裏三行目冒頭から同五枚目表末行末尾までの記載と同一(但し、「本件クレーン車」とあるのをすべて「本件車両」と改める。)であるから、これを引用する。

四  抗弁に対する認否

1  即時取得

(一)(1) 即時取得の抗弁(一)(1)は不知。

(2) 同(2)は争う。本件車両は、道路運送車両法にいう自動車であり、その所有権の得喪は自動車登録原簿への登録が対抗要件であるから、そもそも即時取得の対象とはならない。

(3) 同(3)のうちクレーン検査証を控訴人が所持していたことは認めるが、その余は否認もしくは争う。クレーンの検査制度は労働災害の防止の見地から設けられたものであつて、その検査証の所持は本件車両の所有権の帰属とは関係がない。右証書は性能検査合格証であり、使用許可証に過ぎない。

(二)(1) 同(二)(1)は争う。

(2) 同(2)は否認もしくは争う。本件台車と本件クレーンとは一体をなした単一物である。クレーン部分を、切り離し、分解してしまえばもはや移動式クレーンではなくなつてしまう。本件クレーンのみが即時取得の対象となることはない。

2  権利濫用

(一) 権利濫用の抗弁(一)は認める。

(二) 同(二)、(三)は不知。

(三) 同(四)ないし(六)は否認もしくは争う。

五  再抗弁

本件車両のような移動式クレーン車の取引業界では、その所有権の得喪の対抗要件が自動車登録原簿への登録であることは公知の事実であり、その売買にはいわゆる譲渡証書の交付を伴なうのが通常である。また本件車両のような建設機械は所有権留保約款付で割賦販売されることが多く、中古車を買受ける際には買主には特に慎重に売主にその所有権が帰属しているかどうかを確かめるべきである。

また、クレーン車を使用する買主は、クレーン車に備え置かれている自動車検査証により、同車の所有名義人を容易に知ることができる。そして控訴人は、現に自動車検査証を所持しており、被控訴人がその所有登録名義人であることを容易に知り得たにもかかわらず、確認等の手段を講じなかつた。

したがつて、控訴人は本件車両を買受けるに際し、昭和重機が所有者でないことを知つていたか、仮に所有者であると信じていたとしてもその点には過失があるというべきである。

六  再抗弁についての認否

否認もしくは争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一<証拠>によると、本件車両は、被控訴人が訴外日産ディーゼル工業株式会社から購入した車体に被控訴人の製造したクレーンを装備して、クレーン車として完成させたものであつて、同人がその所有権を取得したことを認めることができ、右認定に反する証拠はなく、請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで抗弁について判断する。

1  本件車両の即時取得について

(一)  <証拠>を総合すると、控訴人は昭和五八年一〇月二〇日昭和重機から、本件車両を代金一、一〇〇万円で買受け、そのころ本件車両の引渡しを受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  ところで、<証拠>によると、本件車両は、道路運送車両法にいう自動車であり、クレーン車として自動車登録ファイル(登録原簿)に登録されていることが認められる。そうすると、同法五条一項によりその所有権の得喪は右登録をもつて対抗要件とするところ、右のように登録された自動車については、その占有ないし引渡しを公示方法とする一般の動産とは異なり、民法一九二条の即時取得の規定は適用されないものと解するのが相当である。

(三)  もつとも、控訴人は、本件車両は検査証とともにしなければ譲渡できず、また労働安全衛生法により権利の発生から変動まですべて右検査証制度により管理されているから、自動車としての登録のみをもつて即時取得の有無を決すべきでないなどと主張する。

なるほど労働安全衛生法は、クレーン車についても規制し(労働安全衛生法施行令一二条)、同法四〇条は、都道府県労働基準局長の検査証を受けていないクレーン車等の使用を禁じ、また、検査証とともにしなければ譲渡できない旨を規定している。しかしながら、これらの規制はいずれも労働災害の防止の見地から定められたものであるところ(同法一条参照)、道路運送車両法が車両の所有権についての公証、陸上を走行するものとしての安全性の確保等の見地から種々規定している内容は右規制と対立しているわけではなく、労働安全衛生法がクレーン車の所有権の得喪についての対抗要件が登録であることを修正したわけのものでもない。現に<証拠>によると、検査証には所有者の記載のないことが明らかであり、右証書から所有権を確知することはできず、したがつて本件車両が右検査証に表象されているものとは到底解することができない。

してみると、本件車両が検査証とともに譲渡され、しかも前記のとおり右検査証が所有権の移転に関係することを考慮したとしても、登録された本件車両の即時取得が可能になると解することはできない。

(四)  よつて、本件車両を即時取得したとの抗弁は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

2  本件クレーンの即時取得について

<証拠>によると、本件車両は外形上一台のクレーン車であり、登録上もその長さ、幅、重量などから明らかなとおり本件台車と本件クレーンとが一体化したものとして、扱われ、また、控訴人は昭和重機から本件車両を製造者・被控訴人、名称・トラッククレーンとする一個の「機械」として買受けていることが認められる。当審証人篠崎允夫の証言、当審における控訴人本人尋問の結果によつても右認定を左右するものではなく、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

してみれば、本件クレーンも登録の対象となつており、即時取得の規定は適用されず、また一つの物の一部に独立の所有権は存在しないから、いずれにしても本件クレーンについてのみ即時取得の成立する余地はない。しかも、物理的に本件台車と本件クレーンとが分離可能であつても、前記判断の妨げとなるものではない。

よつて、本件クレーンを即時取得したとの坑弁も理由がない。

3  権利濫用について

(一)  <証拠>を総合すると、控訴人は昭和五八年一〇月二〇日に昭和重機から本件車両を一、一〇〇万円で買受け(修繕費が別に計上されている契約ではない)、頭金三〇〇万円と仮処分によつて本件車両を引揚げられるまでに三六回にわたる約定割賦金を期限までに支払つてきたこと、本件車両の引渡しを受けてから控訴人は被控訴人の秋田支店の従業員に本件クレーンの使用について指導を受けたこと、また、昭和重機は訴外国産興業株式会社から昭和五八年一〇月一五日本件車両を代金八〇〇万円で買受け、三六回にわたるその割賦金を支払つてきたことがそれぞれ認められる。一方、<証拠>を総合すると、被控訴人の名古屋営業所は、本件車両を名古屋市に本店を有する訴外栄生重機工株式会社に対し、昭和五六年四月二〇日代金二、二五〇万円、但し五〇回の分割払い、代金を全額支払うまで所有権は売主に留保するとの約定で売渡したこと、しかし同社は昭和五八年五月三一日に不渡手形を出して倒産したこと、もつとも被控訴人は右倒産以前六回にわたり同社に対し売買代金の支払期限を延期する措置を講じたこと、右倒産時本件車両は同社の許にはなく被控訴人においてその所在を探索していたところ、名古屋営業所では同年一一月末ころになつて控訴人が使用していることを知り、同年一二月六日裁判所の仮処分命令に基づき本件車両を控訴人の許から引揚げたことが認められる。

(二)  しかし、右控訴人の主張に沿う各事情によつても被控訴人の所有権に基づく本訴請求が権利の濫用に該当するとは到底認めることができないし、その他本件全証拠によつても被控訴人の本訴請求が権利の濫用にあたるとすべき特段の事情を認めることはできない。

(三)  よつて、権利濫用の坑弁も理由がない。

三以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があるのでこれを認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡垣 學 裁判官小川昭二郎 裁判官鈴木經夫)

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